【星連】ファンのみなさま　渡部＠大阪市立科学館です(^^)/ ＊＊＊　この原稿は　転載・コピー・改変自由です　＊＊＊ ■はじめに：せっかちな神様 水星は、英語で Mercury（マーキュリー）。伝令・通信の神様です。 この名前は、わずか数日間でどんどん位置が変わってしまうために つけられたのでしょう。太陽のまわりをはたった８８日間で一周です。 ３０日あまりで、太陽の東（夕方）から西（明け方）の空にうつってしまう せっかちな神様です。 今回の【星空の連帯】では、全国でこの「せっかちな神様」を捕まえます。 それでは第６９回【星空の連帯】全国版のガイドをお送りします。 ■日時：４月１９日（土）日没〜日没60分後（日没時刻は後にあります） 　　　　できれば、日没時と30分後くらい２回ほど ■目標：水星 ■場所：西北西の空ができるだけ低いところまで見える場所。 　　　　地平線・水平線まで見えれば、ベスト。 　　　　また、安全な限りでできるだけ高いところから観察すること。 ■準備： 　道具：できれば小さくてよいので双眼鏡。 　防犯：あまり家から遠く離れなくてもいいと思いますが、 　　　　適当な場所がないのならば、痴漢撃退ブザーなどを用意しましょう。 　　　　また、家の人や先生と一緒に参加する方法もあります。 ■観察 　◆日没時刻の確認 　　今回の、水星は見える時間が短いです。日が沈んでそれほど間もなく 　　沈んでしまいます。チャンスを見逃さないように、日没時刻を確認して 　　ください。前の日の新聞を見てもかまいません（そんなに変わりませんから） 　　一応、各地の日没時刻、おもな地点を掲載しておきます。 　　（私のテキトーなプログラムで計算しているので、２〜３分の誤差があります） 稚内 18:23　網走 18:11　旭川 18:17　札幌 18:20　青森 18:19 北京 19:55　仙台 18:15　新潟 18:22　福島 18:16　富山 18:28 長野 18:24　金沢 18:30　東京 18:16　名古屋 18:27　釜山 18:59 京都 18:31　伊豆大島 18:16　静岡 18:21　大阪 18:32　岡山 18:39 広島 18:44　山口 18:48　福岡 18:51　高知 18:39　室戸岬 18:35 足摺岬 18:40　熊本 18:49　長崎 18:52　鹿児島 18:48　上海 19:25 名瀬 18:48　父島 17:56　那覇 18:54　　宮古島 19:02　石垣島 19:06 　◆太陽をたよりにさがす 　　太陽が見えている間は、水星は見えませんが、太陽が沈んでしばらく 　　すると見えはじめます。 　　そして、その場所は太陽がしずむ場所の真上にあたります。 　　 　　ですから、太陽がしずむ場所を確認し、次に２０〜３０分してから 　　同じ方向の高度１２度ほどをさがすといいのです。 　　高度１２度は「ゲンコツの大きさ」よりひとまわり大きいくらい。 　　「ゲンコツの大きさ」は、腕を伸ばしたときのゲンコツをたてたときの 　　大きさです。星をさがすたよりにしましょう。 　　見つけられなければ、双眼鏡などをたよりにしてもいいでしょう。 　　双眼鏡でみえるはんい（視野）は、ゲンコツの半分くらいです。 高度２０度………: …………………: …………………… : : : : : : : : : : : ☆水星 : : : : 高度１０度…_____………………… : ……………………… / ____} : : | ____] : : | ____] ＜ゲンコツサイズ : | ____) : : | _______ ) : ●日がしずむ場所 : 水平線_______________________________________________ 西 西北西 ■観察レポート 　　観察日時： 　　観察場所：何県何町？　山の上？　家の脇？ 　　天気は： 　　誰と？　：一人で？　家族と？　友達と？？ 　　水星は見つけられましたか？　はい　いいえ 　　感想・質問・【星連】へのリクエストなど何でも ■大科学者・コペルニクスは水星を見たことがなかった。 　　とよくいいます。コペルニクスというのは１６世紀のポーランドの 　　科学者で「地球も他の惑星も太陽の周りをまわっている」という、 　　非常識なことをいった人です。そうしたほうが、カンタンに宇宙の 　　姿を説明できるからだったのですが、このコペルニクスえらそうに 　　惑星のことをいったわりには、水星を見たことがなかったと伝え 　　られています。 　　でも、水星を見たことがなくとも、彼の考えは正しかったことは、 　　いまは世界中の人が知っています。 　　なお、コペルニクスは当時、複雑な惑星の位置の理論をたて、 　　複雑な計算もできる天才として人々に尊敬されていました。 　　ただの変な人ではなかったのです。それが重要です。太陽の周りを 　　地球をまわっていると、何の実績もない人がいっても笑われるだけ 　　ですが、コペルニクスは周りのだれもまねできない精密な理論と 　　計算で、自分の正しさをしめそうとしたのです。 　　世の中には、突飛なことをいう人は大勢います。そして、それは 　　誰でもやれることです。しかし、それをちゃんと裏付けて示すのは、 　　大変な努力と時間・自然に対する謙虚さが必要です。 　　そこがデタラメな人と科学者をわける大きな違いなのです。 ■水星をさぐったマリナー１０号〜水星は、カラカラの星だ。 　　火星へ、木星へ、、多くの惑星探査機が飛んでいきます。しかし、 　　水星に到着した探査機はたった１つ、マリナー１０号だけなのです。 　マリナー１０号について。 　　アメリカの探査機。1973年11月にアトラス・セントールで打ち上げられ， 　　金星の近くから初めて水星のテレビ撮影を行う，その後1974年3月に 　　水星の近くを３回通過し4000枚以上の写真を撮影し、また磁場などを 　　測定しました。 　　マリナー１０号によってもたらされた水星は、クレーターだらけの月の 　　ような世界でした。海などなく、大気はほとんどないと考えられます。また、 　　巨大な陥没地形が見つかっていて、水星全体が縮むような事件があったの 　　ではないかといわれています。 　　 　　水星探査には、様々な困難があります。一番の困難は熱いことです。 　　太陽のすぐ近くをまわっているため、機器が熱で故障してしまうかも 　　しれません。特に半導体は熱に弱いので、対策が大変です。 　　しかし、そうすると探査機が重くなってしまい、作るのにお金がかかります。 　　水星探査を安くやるために、科学者・技術者は日夜頭をヒネっている 　　ところなのです。 　　 　　水星探査は、アメリカ（メッセンジャー計画）、ヨーロッパ＋日本 　　（ベピコロンボ計画）で研究されています。 　　メッセンジャーは２００９年４月打ち上げ予定 　　ベピコロンボは２０１１〜１２年ごろの計画となっています。 　　＃ベピコロンボは、マリナー号の軌道計算をしたイタリア人科学者です ■水星の磁石のなぞ 　　水星は、地球と同じように全体が磁石であることがわかっています。 　　一方で、金星は磁石ではないようです。 　　地球が磁石なのは、中がドロドロの金属でできており、それが動いて 　　電流を起こすことで電磁石となっているからです。 　　中がドロドロなのは、それだけ熱いこと。 　　熱い原因は、地球ができたときに閉じこめられた熱が、まだ宇宙に 　　できっていないからです。これは地球が大きいからです。 　　 　　金星は磁石ではないのは地球よりわずかに小さいからでしょうか 　　しかし、それよりずっと小さな水星が磁石なのは不思議です。 　　 　　ただし、水星の磁場は地球の１００分の１ほどの小さなもので、 　　方位磁石が役にたつかはわかりません。 ■傷だらけの水星 　　水星は空気がない星です。また、太陽に近いため水も蒸発してしまいます。 　　そうすると、風も川もないわけですから、大地はいん石以外では傷がつか 　　ないはずです。 　　 　　しかし、水星は傷だらけです。一つは太陽に近いのと日なた、日かげの 　　温度差が激しく、岩石が伸び縮みをして破壊されるため、 　　 　　もう一つは、太陽からの強力な放射線（宇宙線）にさらされているためです。 　　放射線でボロボロに岩石が傷つけられて、ちょっとしたはずみで岩石が 　　壊れてしまうでしょう。 ■クレーターの名前に紫式部 　　ただ、大きな地形はそのままで、全体としては月と同じように 　　クレーターでおおわれています。 　　クレーターの名前は、世界の有名作家のものがつかわれており 　　直径１３０ｋｍの紫 Murasaki （式部）クレーターや 　　８０ｋｍの（松尾）芭蕉 Basho クレーターなどがあります。 　　詳しくは以下のホームページをごらんください。 　　http://planetarynames.wr.usgs.gov/mercury/mercTOC.html ■強力なレーダーで水星を探る 　　最近、水星の極地方に、氷があるのではという発表がなされました。 　　これは、アメリカのプエルトリコ準州にある、アレシボ天文台の 　　直径305ｍ（1000feet）の望遠鏡からのレーダー電波で解析したものです。 　　私たちは、普段目に入ってくる光で「あれは木でできている」「あれは 　　土だ」と大まかな判断をすることができますが、アレシボ天文台は、 　　それを電波で行ったわけです。ただ、水星自体は電波を出していないので、 　　懐中電灯で光をあてるように、レーダーで電波をあてて調べたという 　　ことなのです。 　　最近では、小さな望遠鏡で月を見る程度まで表面の様子がさぐれるように 　　なってきたようです。このような観測方法をサウンダーともいいます。 　　http://skyandtelescope.com/printable/news/current/article_539.asp 　　また、かつてレーダー観測で、水星の自転が５７日ということがわかりました。 　　水星の自転は公転と同じ８８日といわれていました。水星は永遠に続く夜と 　　永遠に続く昼があると考えられていましたが、水星にはちゃんと１日があった 　　結果です。さて、このように公転の２／３で自転をすると、 　　水星の１日はどのくらいになるでしょうか？　カンタンな算数です。 　　あなたも、この問題にチャレンジしてみませんか？ 　　式を使わなくても、図を描きながら考えてもかまいません。 ■太陽面の水星通過の時に水星の大気を探る。 　　いまから１０年ほど前に、日本から太陽の前面を水星が通過していく様子が 　　観測されました。この時、京都大学の飛騨天文台では、太陽望遠鏡を 　　使って、水星の大気を探る観測が行われました。 　　これは、太陽からの光が水星の大気を通ってくるときに、水星の大気に 　　よって起こる吸収を調べ、さらにはその組成を調べようというものでした。 　　私も、機器の整備などでちょっとだけ協力をしました（観測にはいきません 　　でした。それは同僚が行いました）が、アメリカからきたチームの人は、 　　なんと、ソニーのハンディカムでこの現象を調べようとしていたそうです。 　　どうするかというと、分光器で分光したスペクトルをハンディカムビデオで 　　連続的に撮影し、変化を調べようというものです。 　　もちろん、ピントまわりなどは改造されていたそうですが、身近な機器でも、 　　天文学の研究は行えるのです。 　　なお、この時、残念ながら水星の大気は検出できませんでした。 　　水星の太陽面通過は、こんど５月７日も起きます。このときは 　　どんな観測がされるのでしょうか？ 2003/4/15 - FKYOIKUS5 - Yoshiya WATANABE @ Science Museum of Osaka 【遊び】渡部義弥の Fun! Science ⇒ http://member.nifty.ne.jp/science/ 【星連BBS】http://mcgi2.nifty.ne.jp/cgi-bin/thread.cgi?user_id=MAH03312 【職場】大阪市立科学館 Web Page ⇒ http://www.sci-museum.kita.osaka.jp/